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  旅日記 no.071
「伊賀の里 モクモク手づくりファーム」
2005年12月21日
こんにちわ、金丸弘美です。
今日は「伊賀の里 モクモク手づくりファーム」のお話

 毎日新聞社主催の「グリーン・ツーリズム大賞」で、僕の知り合いの三重県の「モクモク手づくりファーム」が大賞を受賞をした。
その授賞式が12月20日に毎日新聞社の隣の如水会館で行われ参加した。モクモクのことは、本にもしたし、講演や雑誌などを通して、ずっと紹介し続けているので、自分のことのように嬉しい。

「モクモク手づくりファーム」は、生産のみならず、加工、販売、サービスまで手がけた先駆的な取り組みをしている。人口8000人の山村だったところに現在50万人を集め、売上げも28億円となり、今年は、太陽電池と風車のある体験宿泊施設や、ジャージーの牧場や、チーズ工房も造った。来年は、売上げは38億円の予定だという。吉田専務に尋ねたら、通販だけでも売上げはなんと8億円あるという。

三重県の山村にある「手作りモクモクファーム」のことを知ったのは、もう6、7年くらい前だろうか。僕はこれまで、北海道から沖縄まで、500ヶ所は行ったと思うのだが、そのなかで農業に対する回答を探していた。それは、これまでとは異なった、新しい事業展開で、農業そのもの自らの経済性を確保できる、存在はないか、ということだった。

というのも農村を巡り始めた15年前、岩手県に行ったときに、農家の集まりのなかで「これだけ農業が悪くなったのは、あんたち消費者のせいだ。消費者がわがままだから、安いもの、都合のいいものばかり求めるから、農業がやっていけない」みたいなことを言われた。そのとき、心の中で「それは違う」と、思いつつも、その反論ができなかった。その回答がほしくて、これまで全国を巡ってきたような気がする。

ずっと巡っていくと、農業者も消費者も不幸であるということがわかった。中間で搾取し、あるいは安いもの輸入し、あるいはとんでもない加工品を大量に販売する、あるいは農業を買い叩く、あるいは安いもの宣伝する。それらはたいていは、商社や企業や大手の流通や広告代理店であった。

今は、はっきり言うことができる。「消費者はわかっていない。理解させるためには、消費者への教育を農業から仕掛けるべきだ。企業は、コマーシャルで、安いもの、わけのわからないものを売りつける。それをひっくりかえす、農家からの本物の味を伝えよう」と。
あるいは消費者に言う。「マークや宣伝では、安心な食べ物は見えない。現場を見なければ、本物はわからない。東京にも農家はある。
農家にもいってみよう」、実際15年前から、農家のツアーや、メディアでの紹介を、ずっと続けてきたのである。

その後、ずいぶんと農家を巡ったが、先の展望のある農業は、見えてこない。減反や輸入や、農産物の価格低迷、後継者不足、などの話はたくさんある。しかし、経済的に恵まれ、新しい希望のある農業の方向はみあたらない。そのモデルになるようなところはないかと、巡りあったのが、モクモク手づくりファームだったのだ。

なにせ山のなかで、多くの人を集めて、新しい農業を展開していた。
もともとは、たった16名の養豚農家の集まりだったのだ。それが、ただ生産だけでは、輸入攻勢があるなかで、とても将来に展望がもてないということから、組合を結成し、豚のブランド作りから始まって、ハム、ソーセージの加工を始めた。しかし、それは大赤字になる。それを救ったのは、主婦からの提案だった「ハムやソーセージ作りの体験ができませんか?」という話だったのだ。

その話に意見は分かれた。「ハムやソーセージの作り方を消費者に教えれば、ノウハウがわかって、売れなくなるのでは?」「加工場まで消費者がきたら仕事にさしつかえるのでは?」。しかし、モクモクは、新しい選択を取った。それは「もう消費者が、海外に行って本物の味を知っている人がいるはずだ。スーパーで売っているハムや、ソーセージやなくて、実際作ってみたいという、新しい消費者が出てきたのではないか?」という方向だ。

こうして、今も大人気の「ウィンナー体験教室」が生まれた。それが人気を博して、7万人を集めてしまった。その人たちのための、バーベキューハウス、レストラン、ビール工房、パン工房と次々誕生し、ついに50万人となったのである。現在働く人は180名、平均年齢27・5歳。ただ売上げをあげるだけでなく、地域農家との連携、ゴミの堆肥化、環境の配慮から自動販売機の撤廃、太陽電池風車の使用、農業体験の充実など、さまざまな試みがされている。

モクモクの取材を徹底的に行った後に、イタリアのスローフード協会に行き、スローフードの本を書いた。スローフードは、イタリアのNPOで、彼らは彼らで食の経済システムの構築を、賢くしている団体で事業体であるということがわかった。そういったことをみてきたとき、モクモクの築いた農業活動は、スローフード以上のものだと、確信できた。それで、僕は、スローフードの講演で呼ばれるとき、イタリアの事例の後に、必ず、それ以上の存在としてのモクモクを紹介するようになった。

このモクモクの木村社長と吉田専務には、新しいことをいつも教えてもらう。というのも、二人は、国内はもちろん海外まで足を運び、最新の現場を見ているからだ。すべて足で歩いている。それが、新しい農業に、多くのノウハウをもたらしている。その影響で、僕は、全国を徹底的に巡ろうと実践を始めた。モクモクからは、新しい農業者も次々に紹介してもらった。高知の馬路村農協の東谷望史さんや松崎了三さんや福岡のぶどうの木の小役丸秀一さんたちである。

今度、モクモクと連携して本を作ることになっている。それは、農業側から出版を試みようということである。これまで、モクモクはいろんな仕掛けをしてきたし、実践もしてきた。ならば、出版もあっていい。来年は、農業に出版のソフトを加えたいと思っている。
・モクモクファーム http://www.moku-moku.com/

■好評発売中!
・モクモク手づくりファームの取り組みを紹介する本。
『伊賀の里 新農業ビジネスただいま大奮闘』(NAP)
金丸弘美著

「日本経済新聞」「毎日新聞」「読売新聞」「中日新聞」他「共同通信」にて全国に配信されました。各地の町おこしのテキストに使われています。ぜひご覧いただけると幸いです。

■絶賛発売中!
・イタリアのスローフードの組織と運営を紹介する本。
『スローフード・マニフェスト』(木楽舎)
金丸弘美、石田雅芳 共著

本の購入はアマゾンからhttp://www.amazon.co.jp/

●毎週「毎日新聞」デジタルメディアにて食のエッセイ連載中。
http://www.mainichi-msn.co.jp/kurashi/shoku/yurachi/

●金丸弘美正式ホームページ
http://210.255.173.147/tml/kanamaru/kanamaru10.html
・ライターズネットワークhttp://www.writers-net.com/
・日本ペンクラブhttp://www.japanpen.or.jp/
・ニッポン東京スローフード協会http://www.nt-slowfood.org/