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  旅日記 no.103
「強毒 新型インフルエンザの脅威」について
2006年8月22日
強毒 新型インフルエンザの脅威」について

 立教大学経済学部教授の山口義行先生の勉強会「J-WAY」に、時間があれば出かけている。8月1日は、久しぶりに参加させていただいた。テーマは「高まる重篤感染症リスク、早急に対応策の充実を」。報告者:倉田毅氏(前国立感染症研究所長、現富山県衛生研究所長)である。語られた内容は、現在の「人獣共通感染症」「新型インフルエンザへの危惧」などをはじめ、BSEなど、私たちを取り巻く、さまざなウィルスや感染症の危機である。

この勉強会に行く前に手にしたのが「強毒性 新型インフルエンザの脅威」岡田晴恵編(藤原書店)である。これによると、鳥インフルエンザとして問題になった新型インフルエンザは、これまでの弱毒性ではなく、新しい進化した強毒性のものであり、これがどこかで決壊すれば、7000万人とも1億5000万人ともいう人が死亡するという推測がされるという。

1918年の第一次世界大戦後に新型インフルエンザ(スペイン風邪)が、4000万人から8000万人の命を奪ったという。ちなみに、戦争の戦没者は1000万人。日本では1918年にスペイン風邪が上陸。3週間で国内に広がり、死亡者は45万人を出しているという。その後の関東大震災ですら、死亡者は10万人だったいう。戦争や震災よりもインフルエンザが猛威をふるったというわけだ。にもかかわらず、歴史的にはインフルエンザは特記されず、戦争や震災が大きくクローズアップされて、日本人は、危機感がないという。

インフルエンザは、歴史的に数十年おきに大発生をして甚大な被害をもたらすというのだが、その時期がもうきても遅くないという。そもそもインフルエンザ・ウイルスには、A、B、C型があり、人の間で流行するのは、A型とB型。新型インフルエンザは、すべてA型で起こるという。A型は、ニワトリやカモをはじめ人にまで広がる「人獣共通感染症」。つまり「鳥インフルエンザ」として猛威をふるい、大量にニワトリが死亡し、海外では多くの死亡者をだしているのもである。

A型は渡り鳥の体にそもそも存在しているもので、それらの糞を通して、近辺にいるニワトリや豚などに感染して広がる。興味深いのは、カモの体に存在するインフルエンザは弱毒性で、けっしてカモを死なせることはないということ。母体であるカモが死んでしまえば、ウィルス自体が生き残れないからなのだという。ところが、これが鳥インフルエンザと人インフルエンザと同時にかかったりすると、ウィルスが突然変異を起こし、まったく違ったウィルスが誕生し、それらが広がると猛威をふるうのだという。
なかでも、現在流行しているH5N1型鳥インフルエンザは、これまでとはまったく違う強毒性のものだという。

本のなかで、もっとも興味を引いたのは、「養鶏場から生まれた強毒性ウィルス」という項目だ。強毒性ウィルスは、もともと自然界のなかにはなく、ニワトリ、とくに大型化する養鶏が背景にあると考えられること。ウィルスは、毒性が強くなると、その宿主であるカモを殺してしまう。すると生き残れない。ところが養鶏場の大量飼育のなかでは、ニワトリが死没しても、次々に乗り移ることができるニワトリがいるために、ウィルスは変異増殖してしまう。自然界では存在しないウィルスが大量飼育のニワトリを介在として生き残り、多くのニワトリを死亡させているというのだ。そうして、強毒性のウィルスが、死亡するはずのないカモたちにも逆に伝播して、自然界に広がっているというわけである。
そうしてこれがアジア各地で人の死亡者にも広がっている。

かねがね疑問に思っていたことに「鳥インフルエンザ」の報道である。テレビで、京都での養鶏場で、大量のニワトリが死亡し、それを殺処分をする光景が、たびたび映しだされた。しかも対応策として、野鳥に触れさせない、消毒をするという、対処的な対策が紹介される。ところが、近代養鶏のすさまじいニワトリの飼育方法には、まったくといっていいほど触れられていないのだ。
現在の畜産は、大量に飼育する方法にシフトしている。

データを見ると、ニワトリの卵を産む「採卵鶏」は、1960年約383万8600戸の農家が平均11・6羽の鶏を飼っていた。しかし2003年には、4530戸の農家が一戸平均3万1、629羽を飼育している。実に鶏の飼育は2726倍にもなっているのだ。しかも養鶏自体の内容は1960年代とまったくことなる。毎日卵を産むように改良された鶏を密飼いにして、大量に効率よく大型化して飼育する方法に、根本的に変化してる。これは、肉を食べるブロイラーはもちろん、養豚も乳牛も同じである。鳥インフルエンザもBSEも、根っこには、大量生産大量消費の生産システムの構造がある。しかもこれは現在の農業近代化のなかで、大型化効率化がさらに進められているのである。

勉強会で、質問したのは、2つ。一つは、現在の大型化する養鶏システムが、大量に鶏を死亡させることにつながっているか、ということ。もう一つは、高度成長期以降、渡り鳥がすみかとしてきた湿地や沼地の90パーセントが埋め立てられ、わずかに残った沼地に渡り鳥が集中的に集まり、自然界でもまた大量死する構造を生んでいないかという、点である。その回答は、倉田毅氏は「そのとおりです」とのことであった。しかも倉田氏によれば、国家敵危機を迎えるかもしれない感染症の「鳥インフルエンザ」の研究者は、国内でたった4人。全体での研究者でも300名。
アメリカの25分1。さらに人員も減らされるという。私たちは、鳥インフルエンザの背景にある、自然環境と食の環境を真剣に考える必要がある。

■STSサガテレビ特別番組のご案内

・シリーズ『21世紀の佐賀 あなたがプロデュース』第12弾
「スロー風土SAGA
〜あなたのライフスタイルが未来を変える〜」

◇放送日時予定 平成18年8月13日(日)
        14:00−15:50生中継
◇会場予定 佐賀県武雄市若木町 大楠公園 
◇出演者予定
・金丸 弘美(佐賀県唐津市出身・食環境ジャーナリスト)
・山田 信行(武雄市在住・若木51世紀クラブ・一級建築士)
・林  真実(消費生活アドバイザー)
・川埜 ゆかり(富士大和森林組合職員)
ゲストコメンター
・上田正樹・朝本千可夫妻(ミュージシャン・スローライフ実践者)
◇司会進行 鶴丸英樹(サガテレビアナウンサー)
      古賀奈津子(サガテレビアナウンサー)予定