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  旅日記 no.060
「唐津市浜玉中学校の公開学校給食」
2005年10月5日
こんにちわ、金丸弘美です。
今日は「唐津市浜玉中学校の公開学校給食」のお話

 昨年から準備を進めてきた食のネットワーク「オリザ・ジャポニカ・クラブ」がようやく正式に発足した。前回の民家を借り切っての食事会も好評であったが、今回の発会式に選んだのは佐賀県唐津市の浜玉中学校の公開学校給食である。

クラブの考えには、地域景観に配慮し、その地域の食と文化を融合するという考えがある。それを具体的に示すものとして、一回目は民家での食事を選んだのだ。2回目に給食を選んだのは、「子どもたちに本物の味を伝える」があったからだ。

給食に関しては、僕は3年まえほどから毎月のように学校や保育園を訪ねて取材をしている。そして子どもたちと給食を食べるのである。そこでわかったのは、給食の取り組みには地域の温度差があって、かなり隔たりがあるのだ。

例えば、東京でも江戸川区のように旬の食材を使い、果実はすべて国内産、ご飯は山形県産、野菜は地元の農家からという熱心な取り組みをしているところもある。長野県奈川小中学校では、食材のほとんどは、地元か県産、また調理師さんが野菜を作っていたりもする。沖縄県名護市は、農業支援センターが、栄養士と農家を引き合わせ、畑の見学を実施し、できるところから農家との直接の取引を進めているところもある。

ところが、あまり熱心でないところは、センター方式で外注、しかも食材に輸入が多いというところもある。地元に農家も漁港もあるのに、地域のものが給食に使われていないという例も少なくない。
給食の地域での取り組みを要望しても、「難しい」とか「数が揃わない」とか、「仕入れが決まっている」など、消極的なところもある。

ところが、僕の出身地の佐賀県の七山村や浜玉中学校の給食は、なんと地元産が40%から60%、これを周辺の唐津市、佐賀県内まで広げると、ほぼ県産100%という食材を用いているのだ。

このことを知ったのは、実は沖縄がきっけである。もう4年ほど前だろうか、沖縄の長寿の村で知られる大宜味村を訪ねたときに、長寿の村の子どもたちはなにを食べているのだろうか、という素朴な
ことから、給食センターに行ってみた。そこで出会ったのが栄養士の北城むつみさん。彼女たち沖縄北部の栄養士さんたちは、農家一戸一戸を巡り、どの農家でいつの時期、なにが採れるかリストにしてあり、旬の食材による沖縄の給食のメニューが写真入りで作成され、すべてファイリングされいつでも地元の食材を用いてのメニューができるようにしてあった。

その彼女の取り組みにすっかり感激をした。そこまでするのは「沖縄は長寿とはいうけれど、子どもたちの食をみると、ハンバーガーやカレーなどが中心になっている。このままでは、未来に子どもたちの長寿はいなくなるという危機感があった。実際、沖縄の今の若い世代は、肥満を始めとする生活習慣病が広がっていて、若い人ほど、早世になっているんです」からとのことだった。

その彼女の言葉から、僕は全国の給食を訪ねてみようと思ったのだ。北城さんから、東京の研修のときに仲間を紹介したいと、引き合わされたのが、福山隆志さん。なんと佐賀県七山村、浜玉中学校の給食の栄養士さんだったのである。地元佐賀、しかも実家の近くに、熱心な栄養士さんがいることを初めて知った。早速、七山村に行ってみて驚いた。地元の取り組みができていて、子どもたちにこそ、本物の味を伝えるということが、実施されていたのだった。

すでに福山さんは、七山の近くの唐津市浜玉学校給食センターに異動になっていたのだが、福山さんがこんどは浜玉でも、熱心な活動をしていることを知った。そこで、僕たちオリザ・ジャポニカ・クラブの呼びかけ人になってもらうとともに、ぜひ素晴らしい取り組みを一般の人たちに知ってもらおうと、持ちかけたのだ。

福山さんは、すぐに校長に話をし、快諾を得られた。一方、「佐賀県知事にもきてもらい、子どもたちに接して欲しい」との要望も出された。こちらも調整したところ、了承してもらった。

こうして9月29日、浜玉中学校での知事の講演付きで、給食にかかわっている地元生産家7名、一般参加者45名が参加するという公開給食が実現した。まず午前中は体育館で知事の講演を聞き、お昼は1学年から3学年まで、それぞれの教室に割り振って、みんなで給食を実際に食べてもらった。

給食後は、生産者、参加者に集まってもらい、具体的な取り組みを話してもらったのである。この日、福山さんはお父さんが亡くなったため、欠席となったのだが、準備は万端にしてあって、かわりに浜玉支所教育課学校教育係の栗原美紀子さんが、説明にたってくれた。

当日は給食の考え、献立、栄養素のバランスのリスト、給食費、県の「ふるさと給食」の事業内容、給食にかかわる生産者のリポートなど、具体的で丁寧な60ページあまりの資料が、きちんとそろえられていた。

栗原さんに尋ねたら、この日のメニュー、白ごはん、牛乳、里芋五目煮(地元産、佐賀和牛肉入り)、きゅうりあえ、アジフライ、巨峰は、100%地元産とのことだった。この地域の連携を、栗原さんは、特別なこととも思ってないふうだ。「自分の家が農家だから、できるだけ地元のものを使いたい」とのこと。福山さんも、栗原さんも、長い時間をかけて、地域の農家や加工品などに通い、少しずつ形にきたという。

この公開給食は、大成功で、学校側からも参加者からも絶賛された。
とくに福山さんや栗原さんたちの実行力と協力している生産者たちが、素晴らしかった。

今回の実施にあたり、事務局の白濱美保子さん、小島紀世代さんたちが、地元メディアに呼びかけたところ、NHK、佐賀テレビなどを始め、テレビ、新聞、ラジオなど、11社もの取材が入った。
翌日、多くの人たちが報道を観てくれたらしく、オリザ・ジャポニカ・クラブのスタートは、多くの人に認知されることとなった。

・オリザ・ジャポニカ・クラブ
 佐賀県西松浦郡有田町戸矢1851−10
 電話・FAX 0955−42−6435

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