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  旅日記 no.064
「男はつらいよ」
2005年11月2日
こんにちわ、金丸弘美です。
今日は「男はつらいよ」のお話。

 若い頃に観た渥美清の『男はつらいよ』のフーテンの寅のように全国をふらふらと旅に出たいと思ったものだ。寅の仕事は香具師(てきや)である。「やし」ともいう。この香具師に、僕は祭りの頃いつも魅せられていた。当時は、巧みな口上を述べる香具師がいくらもいて、その弁舌の鮮やかさに圧倒され、ひかれたのだ。

もうすぐ唐津くんちである。11月2日から4日まである佐賀県唐津市の秋祭り。たまたま九州横断鉄道に載っていたら、「唐津くんち」の紹介があって、その勇壮な山車のことが書かれて絶賛されていた
のだが、僕にとって、祭りは、なんといっても境内から参道にずらりと並ぶ香具師の屋台であった。

境内のハブのクスリ売り、レントゲンの筒、ブリキの飛行機、サーカス、見世物小屋、のこぎり売り、地球独楽、焼き物売り、バナナのたたき売りなどが、ずらりと並んで、それぞれに弁舌鮮やかな、香具師が口上を述べて、物を売ったものだ。それこそ、寅さんは、ほんとにたくさんいたのだ。

だから香具師の本も買ったし、小沢昭一さんの「私は河原乞食考」などの著作や「日本の放浪芸」における香具師の口上の記録、民族学者神崎宣武さんの「わんちゃ利平衛」における食器売りの香具師の物語など、片端から読んだ。ついには神崎先生に手紙まで出して会いに行き、知り合いにもなることができた。

また唐津くんちの祭りを通して、自分の地域を知りたいという思いから、「えんや 写真集・唐津くんち」を、写真家の英伸三さんと、4年がかりでドキュメントを作成したし、その後、3年かかって、唐津の人々に100名以上もあって、「えんや! 曳山がみた唐津」という唐津の暮らしを本にした。そのときに香具師の親分に会いに行った。

香具師の親分に会ったのは、僕が小さい頃に憧れた香具師が、どうやって祭りのときに屋台を組むのかその仕組みを知りたかったのだ。
それは実に面白かった。親分さんが、祭りの取締と、神社の宮司と協議を行い、祭りの屋台の配置をすべて決めるのである。

屋台がでる場所をすべて確認を行い、どの場所になにを入れるか、その場所が水道が使えるか、参道に並ぶ家に挨拶に行き、そうして調査をもとに、どの家の前に屋台を出すのか、これを方眼用紙にきちんと名前入りで書き込むのだ。親分は、屋台が出せるように、警察、保健所、市役所のゴミ処理まで、すべて段取りをする。

そうして、親分が窓口になって、他の地区からやってくる香具師を受付、その方眼用紙に手数料をもらって割り振るのである。そのときに、すべてのものが売れるように考えられる。例えば、綿菓子屋
がいくつも重ならないように、全体にばらすとか、口上ができる香具師は、人が集まるところの角の空き地に置くとか、奥行きのあるところは射的屋を集めるととか、いった具合だ。

その香具師も商売ができるだけうまくいくように配慮されるのである。そうして、唐津の香具師のメンバーが、よその地域に行くときには、他の地域の親分を窓口にすれば、すべて段取りをしてもらえ
るようになっているのである。これは、よく考えると、町づくりと同じである。全体のコーディネートをしているのである。

最近、あちこちに旅をするのだが、日本の街はほんとうにひどい。
街並み景観を配慮しない、無造作な建物があちこちにあって、どの町も、これほどひどいのかというほど、ほころびているところばかりだ。商店街も、全体のことを考えない、店舗作りばかるである。
唐津も同様になってしまった。それこそ香具師の屋台ではないが、全体の流れを作ればといつも思う。

唐津くんちの本作りが契機になって、神崎先生と親しくさせていただくようになったのだが、それから神崎先生の著作群は、現在も影響を受けて、日本の暮らしを見直すときに、いつも参考にしているほどである。あちこちを歩きながら、暮らしと歴史と文化を考察する視点は、いつも感心させられている。

僕は、神崎先生のように歩きながら考察をし、日本全体が観ることができる視点をもてたらと、いつも思ってきた。とくに、ここ4,5年は、徹底して農村に行こうと意識してきた。というのも、村も食も農業も暮らしも、なんだか足元がおぼつかない。であるならば、自分の目で、毎週のように歩いて、地域の再生の道を見つけたいと切に思い始めたのだ。

先般、NHK大分に声がかかって、僕は、大分県竹田市のサフラン農家の生中継に出ることになった。竹田は、ここ数年訪ねたなかでは、もっとも気に入った町である。竹田では、街並み作りが、熱心な地域の人たちが取り組んでいる。そんな素敵な人たち、役場の竹田研究所の河野通友さんや、堀田貴子さんたちが待っていてくれた。
とくに河野さんは、前回も今回も家に泊めてくれて、町づくりの話を熱心にする。僕も全国の話をする。まったくそれまで知らなかった僕に河野さんは、いろいろと町を案内してくれる。奥さんは料理がうまくて、素晴らしい手料理でもてなしてくれる。旅の空の下で、こんな素敵な出会いがあるなんて、なんだか寅さんみたいだなあと、思う今日この頃である。

■講演会のお知らせ
食の国あきた推進フォーラム〜秋田の食の豊かさ再発見!〜

・開催日 平成17年11月24日(木)
・場所 秋田ビューホテル 飛翔の間
・開催内容日程 11:30〜13:30(ランチ参加500円)
1部 ランチ食談会「あきた再発見」
(光琳の間?、?、?、ホワイエ)
?伝統食の試食展示 ふるさと秋田の食100選から
?ホテルシェフによる県内食材・伝統野菜の料理と展示
13:30〜15:40

2部 シンポジウム              
・オープニング  主催者による餅撒き
・主催者あいさつ 知事 寺田典城
・事例発表 「地域に学び、地域と共に生きる」
秋田県立横手清陵学院高校 家庭クラブ(文部科学大臣賞受賞)
「食生活改善推進員によるによる食文化伝承の取組み」
由利本荘市食生活改善推進協議会本荘支部 佐々木和子 氏
 (14:10〜15:30)   

・講演 「地域の食の豊かさ再発見!」
食文化ジャーナリスト 金丸弘美氏

参集者 秋田県民対象  900人
秋田県農林水産部流通経済課

問合せ:食の国あきた推進チーム 吉尾聖子
TEL 018−860−176 
FAX 018−860−3806
http://www2.e-komachi.jp/chisan
・主催 ごはんを食べよう国民運動推進協議会 秋田県、秋田県ごはん食推進会議 あきた食品振興プラザ、秋田県農山漁村生活研究グループ協議会 スローフード秋田 

・協賛 秋田県農業協同組合中央会、全国農業協同組合連合会秋田県本部、秋田県畜産農業協同組合連合会 秋田県漁協同組合 秋田県農業会議、秋田県指導農業士会、秋田県女性農業士会、秋田県青年農業者会議JAあきた女性組織協議会 秋田県栄養士会、秋田県食生活改善推進協議会、秋田県調理師会、秋田県日本調理技能士会 地産地消を進める会

●毎週「毎日新聞」デジタルメディアにて食のエッセイ連載中。
http://www.mainichi-msn.co.jp/kurashi/shoku/yurachi/

■絶賛発売中!
・第10回ライターズネットワーク大賞受賞
『ゆらしぃ島のスローライフ』(学習研究社)金丸弘美著

「本当のスローフード、スローライフって一体なんだろう?それを金丸弘美さんはこの本で教えてくれている。充実した人生の浪漫を喜び、そして生き方を悟らせてくれる名著だ」(東京農業大学教授・小泉武夫)

NHK「私の本棚」、NHKポップスライブラリーで朗読紹介
本の購入はアマゾンから。http://www.amazon.co.jp/

●金丸弘美正式ホームページ
http://210.255.173.147/tml/kanamaru/kanamaru10.html
・ライターズネットワークhttp://www.writers-net.com/
・日本ペンクラブhttp://www.japanpen.or.jp/
・ニッポン東京スローフード協会http://www.nt-slowfood.org/