こんにちわ、金丸弘美です。
今日は「秋田・無明舎のあんばいこうさん」のお話
久しぶりに秋田に行くことになった。時事通信社の内外情報調査会に呼ばれて「食からの地域再生」のテーマでの講演会に呼ばれたのである。講演会が終わってみると、次の大館の講演まで、時間がたっぷりとある。そこで、秋田の出版社、地方出版で有名な無明舎出版の阿倍甲(あべ・はじめ)さんこと、あんばいこうさんに連絡を取ってみた。すると、偶然いらして「せっかくだから会社においでよ」という嬉しい返事。そうしてタクシーを飛ばして秋田大学の近くにある無明舎に向かったのである。
無明舎は、地方出版社として成功しているきわめて稀な出版社である。秋田、東北の文化の出版物を300点以上刊行しいてる。
言語、食文化、暮らし、芸能、自然、観光、農業を始め、秋田を拠点に、東北の文化を本にしている。秋田や東北を調査をしたり、取材をしたりするときに、今や、無明舎は必要不可欠な存在。東京の作家や大学の教授など、東北研究をするときに、無明舎の出版物は欠かせない必需品なのである。
小さな二階建てのオフィスにたどり着くと、あんばいさんが、玄関近くで待っていてくださった。二階のあんばいさんの社長室兼オフィスに案内されると広々とした空間に、大きな一枚板のテーブルが置かれている。こじんまりとして整理整頓され清潔な空間は、執筆には申し分ない環境に思えた。「ビールもあるし日本酒もあるけど、なにがいい? 飲むには早いけれど」とおっしゃって、僕がリクエストしたのは日本酒。すると、浅舞酒造の「天の戸」の大吟醸が出てきた。
「天の戸」の杜氏の森谷康一さんは、まだ若い無名のときに、あんばいさんが、彼の本を出版した。今や銘杜氏で、連続金賞受賞。
東京でも知られる存在となったという。出された日本酒の口のあたりのいいこと。ソフトでまろやかで、口のなかでとろけるよう。
とても上品で、なんなくすっと入ってしまう。あんばいさんのお酒の話と最上の酒。さらに出された大潟村で取れたという小魚の佃煮。このコラボレーションに、あんばいさんの、地域をしっかり踏まえた文化活動のありようが見えて、心のなかで「秋田に来て、あんばいさんにあえてよかったなあ」としみじみ思ったので
ある。
あんばいさんとは、本や農業のこと食文化のこと映画のことと、さまざに話が広がった。なかでも、農業と食については、話がどこまでも続いた。現在の農業生産という形の農業では、おそらく農業の存続はありえない、ということで話は一致した。やはり、規模拡大や効率化では生き残れない。販売や営業、サービス、加工を踏まえて、自らが、価格決定権まで持ちうる存在になるのでなければ地域では生き残れない。
秋田は米どころで有名である。自給率も100パーセントを超えている。日本の自給率は平均40パーセント。100パーセントを超えているところは、秋田を含む東北4県と北海道しかないのである。ところがあんばいさんに言わせると、現在、東京との所得格差が広がり、地域でおいしいものや、料理の上手な料理人などは、ねこそぎ東京にもっていかれる、というのである。
無理もない。東京は自給率1パーセント。しかも地方の食料生産は、ほとんどが東京にシフトしている。一方、東京はバブル以降。
レストランの大ラッシュである。ファッションビルの目玉はレストラン。六本木ヒルズ、汐留、丸の内など、次々に生まれる再開発のビルには、著名レストランが目白押し。東京は毎月200店舗の飲食店がオープンし、毎月250店舗が廃業しているといわれる。利益率3パーセントとうわさされる熾烈な戦い。そのなかで地方の有名料理人、食材があれば、それがすかさず、東京のバイヤーの目にとまることとなる。
「秋田はね、食料難のときに米も他の食材も豊富にあった。だから、都会からねお金を積んで、米を買いに来るような県だったのね。たとえば、糠漬けがあるでしょう。米糠で漬物をする。ところが、秋田にはそういうのがわからない。なぜなら、米麹で漬物を漬けていた。それくらい贅沢なところだったのよ。だから逆にいうと、現在の人を外部から呼ぶような料理が育たなかったともいえる。また育ったら育ったで、みんな東京にもっていかれる。
地域だけを相手にしていても、経済的には厳しい。うちの本だって、購入するのは、ほとんど他県の人だからね」とあんばいさん。
秋田で地域でなりたっているところは、東京で通用するレベルに達する料理、食材であるという。確かにそうかも知れない。そんな話を始め、グルメ評論家と言われる人が、実は、大手企業の食材や料理人のリサーチを担当し、そうして東京に運ばれているといった話や、黒澤明、三船敏郎の実家が秋田で、そうとうの有名人の生まれた里が秋田にあるとか、黒澤監督の「夢」でのエピソード「きつねの嫁入り」は秋田の話だとか、遺作となった台本「雨あがる」には、秋田の唄がモチーフになっているとか、さまざまな話となった。
あんばいさんと知り合ったのは、もう15年以上も前のことである。それは雑誌「トランヴェール」での取材だったのだが、そのときの言葉を今も忘れない。「本作りは農業と同じ。足元を耕せば無限の宝が眠っている」。僕は、あんばいさんに、原点をちゃんと見ているかい? と改め言われたようで、また自分の方向を確認できたようで、嬉しい時間となったのだった。
http://www.mumyosha.co.jp/
■シンポジウムのお知らせです。
「オーライニッポン東京シンポジウム」
農業とのふれあいを東京から提案する
・日時 2006年9月6日(水曜) 13:30〜17:15
・場所 東京都第一庁舎5階 大会議室(定員500名)
・主催 オーライ!ニッポン会議
http://www.kyosei-tairyu.jp/
・共催 東京都、農林水産省、(財)都市農山村漁村交流化活性機構
・内容
1・基調講演 高木美保 「農業のある暮らしを楽しむ」
2・NPO法人活動報告
NPO法人えがおつなげて、NPO法人自然体験活動推進協議会、
NPO法人ふるさと回帰センター
3・パネルディスカッション
コーディネーター 金丸弘美 食環境ジャーナリスト
パネリスト 加藤義松 練馬区園主会会長
斉藤恵美子 NPO法人たがやす事務局長
植村春香 地球環境パートナーシッププラザスタッフ
他
第二部 交流会 17:45〜19:45
東京都庁議会棟 一階 銀座ライオン 東京食材を食べよう
問合せ 東京都農業振興課 電話03−5320−4833
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■発売たちまち増刷!
「東京の自給率は1%」「そばの自給率は14%」「食料の輸入がとまると肉は10日に1食」など、食の姿が見えてくる48の事実を、豊富なイラストで紹介するオールカラー・ビジュアルブック。
・『フードクライシス 食が危ない!』
・金丸弘美著 イラスト・ワタナベケンイチ
・出版社:ディスカヴァー
http://www.d21.co.jp/
・価格1260円(税込) ・問合せ:電話03−3237−8991
「クロワッサン」「VOCE」「SPA!」「週刊現代」
「ダヴィンチ」「生島ヒロシのお早う一直線」
「生島ヒロシのエイジングジャパン」「FM東京」などで
取り上げられています。
◎全国「食」の活動は毎日新聞デジタル「ゆらちもうれ」で連載中。
http://www.mainichi-msn.co.jp/kurashi/shoku/yurachi/
◎ホームページ
http://www.jgoose.jp/kanamaru/
ライターズネットワーク
http://www.writers-net.com/
・日本ペンクラブ
http://www.japanpen.or.jp/