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  旅日記 no.178
「好きなアメリカ映画について語ろう」
2008年2月20日
こんにちわ。金丸です。
今日は「好きなアメリカ映画について語ろう」です。

アメリカ映画で気に入ったものをあげるとなると、キューバ危機や、ベトナム戦争の政治的背景を描いたドキュメンタリー「フォッグ・オブ・ウォー マクナマラ元米国防長官の告白」(2003)となる。一人の政府高官の話から、その当時のあらゆるフィルム、資料を駆使して、構成されたアメリカ現代史で、そうとうの見ごたえある作品だった。

ほかには、中産階級の崩壊とアメリカの暮らしをコミカルにみせた サム・メンデス監督の「アメリカン・ビューティー」(1999)、大手自動車メーカーのレイオフから町が崩壊するさまをドキュメントしたマイケル・ムーア監督の「ロジャー&ミー」 、銃社会の矛盾をみせる「ボーリング・フォー・コロンバイン」、医療制度の不備と保険社会のほころびを指摘する「シッコ」などをあげることができる。

もちろん、「バットマン」を手がけた、ティム・バートン監督の死と生の世界を描いたアニメ「ナイト・メア・ビフォー・クリスマス」や、現代版のフランケンシュタイン「シザー・ハンズ」、宇宙戦争のパロディのような「マーズ・アタック」といった作品も好きだ。でも最近は、やたら派手なパターン化した娯楽大作よりもアメリカの国の社会性のゆがみやひずみをとらえた作品が、どうしても心をとらえる。

そういう意味では、クリント・イーストウッド監督の女性のボクサーを主人公とした「ミリオンダラー・ベビー」、第二次世界大戦内の軍事主導のプロパガンダの内幕を描いた「父親たちの星条旗」なども、あげることができるだろう。最近では、ドラマであってドキュメントのような小さな家族がカリフォルニアに旅をするという新しい形のロードムービー「リトル・ミス・サンシャイン」がコミカルで優れた作品だった。これが実際は、多くのアメリカ国民の実像ではないかと思ったものだ。

さて、寡作だが、気になっている監督がいる。ポール・トーマス・アンダーソンだ。彼はポルノ映画の世界を描いた「ブギー・ナイツ」で、大きく注目された。そこには、派手に喧伝されるアメリカの社会のなかの孤独な空洞を、ポルノという世界で、見事に見せてくれた。

彼の最新作『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(THERE WILL BE BLOOD)を見てきた。アメリカでは2007年の公開。、日本ではゴールデン・ウィークに公開される。上映時間158分という長編作品。これはカリフォルニアの、かつて盛んだった石油開発の物語である。

石油開発というとエリザベス・テーラーとジェームス・ディーンの「ジャイアンツ」を思い出す。主人公が油田開発に成功し、巨万の富を得ながらも、実は孤独のなかにあるというところでは、二つの作品は、似てなくもない。

『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』は、カリフォルニアの油田が出てくるまで、19世紀末から20世紀初頭の話だが、どうしても現代のブッシュ政権のアメリカと重なってしまう。というのも、石油の利権をめぐっての、一人の男の強欲な姿が、そのまま現代社会に重なってしまう。これはすぐれて時代劇でありながら、現代劇なのだと思う。

小さなカリフォルニアの貧しい土地に現代の黒いダイアモンドを発見した主人公は、実は世界規模の、大きな欲望と歯車のとまらぬアメリカ現代社会のパンドラの箱を開けてしまったのだ。

始まりからおよそ20分、ほとんどサイレントのような幕開けは圧倒的。まるで、サイレント時代の大作D.W.グリフィスの「イントレランス」かのような、壮大な叙事詩のよう。そこから、主人公は、石油のために、あらゆる努力を惜しまない。だが、そこは、富とともに、大きな欲望も果てしなく広がっていく。主人公のダニエル・デイ=ルイスの存在感が素晴らしい。

出演
ダニエル・デイ=ルイス
ポール・ダノ
ケヴィン・J・オコナー
キアラン・ハインズ
ディロン・フリーシャー

監督/脚本:ポール・トーマス・アンダーソン
製作:ジョアン・セラー、ポール・トーマス・アンダーソン、
ダニエル・ルピ
製作総指揮:スコット・ルーディン、エリック・シュローサー、
デヴィッド・ウィリアムズ
音楽:ジョニー・グリーンウッド
美術:ジャック・フィスク
製作:Ghoulardi Film Company、パラマウント映画、ミラマックス
特殊効果:インダストリアル・ライト&マジック