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  旅日記 no.185
「ルポ 貧困大国アメリカ」
2008年4月11日
こんにちわ。金丸です。
今日は「ルポ 貧困大国アメリカ」の話です。

 アメリカの格差社会のひどさは、『超・格差社会 アメリカの真実』(日経BP社)を始め、いくつかの本で紹介されているが、最近手にした『ルポ 貧困大国アメリカ』堤未果著(岩波新書)は衝撃的内容であり、ルポルタージュでもすぐれた一冊だ。

経済を優先させる現代アメリカ社会で、ほんの一握りの大金持ちを作るなかで、一方で、巨大な貧困層を生み出している。そして経済に行き詰った多くの人が、消費されるという恐ろしい構造を丁寧な取材でときあかす。

あげく、イラク戦争に、多くの若者が借金の返済や、貧困で生活費を得るためにやむない選択肢として戦争に刈りだされる。そこにはイデオロギーもなにもない。その背景には、軍需も産業にするアメリカのおそろしい自由主義政策という名の、一部の拝金主義がある。
書き出しは、今話題になっているサプライムローンの実態からだ。このローンが実は、アメリカの住宅ブームが低迷したことで、新たに不法移民と貧困層というこれまでには、まったく対象にならなかった人々をターゲットとした住宅融資であったこと。

そして英語もろくに読めない人たちが住宅を取得したとたん、容赦なく利率の高い返済が襲い掛かり迫られ、次々と破綻に追い込まれ住宅は差し押さえられる。結果、ローンを組んだ人々は、家を追い出され、借金だけが残り放り出される。

2007年から1月から6月のたった半年間で差し押さえられた物件は約57万340軒もあったという。そして町ごとゴーストタウンになるという実態。そのサプライム担保証券が利まわりがよいことから世界のヘッジファンドと銀行が飛びつき、それが世界に広がり、結果的には大きな損失を招くという、とんでもない恐ろしい構造があぶりだされる。

その背景にはニクソン時代に始まった効率主義や市場主義。そして、企業の規制緩和や社会福祉の削減などである。結果、一部の金融、IT、コンサルティングなど一部のエリートを産みだす一方、多くの労働者が貧困層に転落していく。貧困層の定義は4人世帯で世帯年収が2万ドル(220万円)以下。2006年は3650万人という。

2005年の貧困率は17・6パーセント。うち18歳以下は17・6パーセント。そして合理化が進みブッシュ政権は社会保障政策をさらに削減させている。貧困層の多くの子どもたちが無料や割引給食を受けているが、そのメニューは最悪。ハンバーガーやフライドチキンなど脂の多いジャンクフードのオンパレード。児童の肥満率は50パーセントにもなるという。

そしてそこにはマクドナルドを始めピザハットなどファストフードチェーンが給食の市場に入り込む。大手企業に子どもたちの食生活と健康が食い物にされている。肥満は大人たちにも広がり、そこからダイエット産業と健康補助食品が広がる。

恐ろしいのは公的な医療機関が次々に民営化される一方で、市場原理に病院もまきこまれ、その結果、世界一高い医療制度を生み出す。このことは、マイケル・ムーア監督の『シッコ』でも描かれたが、現実はすさまじい。盲腸手術のニューヨークの一日の入院で費用は243万円というからとんでもない。

この結果、医療負担から自己破産する。2005年で208万件の破産があり個人破産は204万件。その半数が医療費の負担からだというから恐ろしい。

そして格差の拡大は学生の就職先をせばめる。高学歴を得るための学費のローン負担、医療費負担から借金に追い込まれる。そして、その学費返済に軍隊へのリクルートが待ち受ける。そしてテロ以降、破綻した学生たちの個人情報は、テロ対策の名目で、すべて情報は政府に流出していく。

戦争には若い者と貧困層が思想に関係なく、戦場に送り出される。その戦場でのさまざまな運搬や作業などをフォローするのは、これも民営化された民間企業。そこには、さらに多くの貧困に陥った人々が送りだされる。

この本の警告はアメリカに追随し、その政策があたかも優れたかのように、民営化、企業化、ファンドなど、次々に襲い掛かる日本の経済のなかで、私たちの生活が、グローバル化のなかで、格差が広がり、人々の日常の生活がいつ崩されるかもしれない危機が目の前にあることを真摯に伝えている。


金丸弘美(食環境ジャーナリスト・食総合プロデューサー)
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