こんにちわ、金丸弘美です
今日は「奄美長寿・子宝プロジェクト」のお話
久しぶりに徳之島に行った。もう温かいと思っていたら、どんよりと曇り模様で、やけに冷えていてストーブのいる毎日。もっとも島内を歩いてみると、すでに桜は散りかけている。タラの芽は、もう旬を過ぎている。菜の花が満開で、サトウキビと島の最上の柑橘タンカンの最盛期であった。小さな花々が咲き始めている。
春の芽吹きは、もう一杯なのであった。4、5日して、ようやく太陽が顔を出し、それにともなって黒い大きな羽のところどころに鮮やかな紅模様を散らした大きな蝶が舞い始めた。徳之島には、5日ほどいて、家族と過ごすことを中心とした。
13日に徳之島から、保健センター所長の澤佐和子さん、役場の保健福祉課の美延治郷さんと、奄美大島の名瀬に向かった。県の呼びかけによる「奄美長寿・子宝プロジェクト推進協議会」の会議に出席するためである。僕は、この委員の一人に任命されている。というのも徳之島の伊仙町の長寿調査とシンポのコーディネーターをつとめたことと、全国の食のジャーナリストの活動が認めてもらえたようなのだ。会議は大島支庁で開催されたのだが、喜界島、与論島を始め、奄美全島の役場の人たちと地元の新聞社
が集まった。
この会議は、地域の資源である環境、長寿の暮らし、食材、料理、芸能などを使い、それぞれの島の地域の特徴を生かして、健康づくりを推進すると同時に、観光や産業に結び付けようというものである。それも各市町村が主体的に取り組むというものである。
我々委員は政策と地方の行政とのつなぎやくと、アドバイスが役割である。
実は、この会議の前に、農水省が進めている全国の活性化が行われているところや、循環型農業がうまくいっているところの調査の委員会があって、そちらにも出席した。農水省の調査対象地区は、岩手の雑穀をブランド化した花巻農協や、大分の町全体を生かした観光事業をしている竹田市など、全国13地区である。これらの詳細を調べて、なぜそういうことが生まれて、だれがどんな形で実現しているのかを、調査し、それを一つのモデル事例として、各市町村に示そうというものである。
これはどういうことかというと、現在、進められている市町村合併と、地域を主体とした政策と事業化を、実現するための、一つの指針を示そうというものだ。今、現在、地方行政や農業がドラスティックに変ろうとしている。地方は自らの政策を提言し、それにそった形の事業を自ら生み出さなければならなくなっている。
これまでのような公共事業はないし、現に大幅に削減されている。農業の補助政策も大きな見直しがされ、大型化の農家か、新しい事業体や組合などに集中化される。また様々な地域の事業は地域側から創造しNPOなど協業で進めることになっている。
ところが、これまでトップダウンできた地方の行政や農業政策は、地域が自ら主体的に取り組めているところはまだまだ少ないのである。そこで、方向性や事例を示すことで、地域が自らの政策をするという形に仕向けるようになっているのである。このための新しい予算や補助が組まれている。新しい政策提言を示さなければ、置いてけぼりになってしまう。また予算も取れない。
「奄美長寿・子宝プロジェクト推進協議会」では、県が示した政策があって、それぞれの市町村に「長寿」「癒し」「食文化」「ツーリズム」などの、テーマが割り振られていて、それを自らがいかに政策に取り入れ、事業と地域の政策として消化して、次の事業目標や地域作りを生み出したかというのが、議題となった
全市町村から発表が行われたのだが、これを真摯に受け止めて消化し、自らの事業の方向として明確に政策に反映させているところは、少なかった。しかし、そのなかで、はっきりとした課題と調査と目標と実践を示したところがあった。徳之島の伊仙町である。
保健センター所長の澤さんは、伊仙町が、泉重千代さん、本郷かまとさんが生まれた長寿の町であること。しかし、調査の結果、30代、40代の生活習慣病が広がっており、危機的な状況になっていること。このために、啓蒙活動を開始したこと。一方で長寿宣言をした沖縄県大宜味村に赴き、視察を行い、それを基に伊仙町で1200名のお年寄りの調査を行い、長寿の食と食材を明確にしたこと。
その調査を基にシンポジウムを行い、食のワーキング、町巡り、さらには親子の地域の食探検と料理教室や学校の食育を、地域の農家や主婦などと連携して実施したこと。地域の食をブランド化とレストラン展開など将来の観光事業につなげること。食文化の発信をマスコミも使って発信していること。それによって、地域の人の意識が代わり始めたことなどが報告されたのである。この内容は委員の何人かから高く評価されたし、他の役所からも賞賛された。
実は、もう4年も前だろうか、農水省で国の農業政策の根幹を作っていた篠原孝さんと合宿をしたことがある。そのときに、国から有機農業に対してどんな予算が取れるのか、また国がどんなことをしてくれるのか話を聴こうと思ったのだ。だが、篠原さんは、「これから国がなにかするということはないし予算も降りない。
地方から政策を作り提言しないと、新しい活動も予算もつかない」とのことだった。
そうして、徳之島で、町長を始め地元の人たちと何度も話し合い、長寿シンポの骨子を作り、地域の人が主体となった活動が始まった。
それが、今回の名瀬での会議で、ようやく一つの点が線となり面となって見えてきた。なるほど、国での動きは、こういうことだったのかと、4年目にして初めて見えてきた。一種感慨深い瞬間だった。
その日の午後の懇談会では、澤さんと美延さんと、次の町づくりの話が、お互い共通のイメージで語れるようなって嬉しかった。
「これから忙しくなる。もっと手伝ってもらわなきゃ」と美延さん。
「これから楽しみですねえ」と、澤さん。この二人が、全体と未来が見えている。彼らの実戦部隊が核となれば、町は大きく動き出すだろう。国、県、地域、そして全国と歩いてきたことが、自分のなかでも見えてきて、これからが、本番なのだと思うとわくわくして
きたのだった。
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イタリアでのスローフード協会の食のワークショップや、静岡の小学校の「おにぎり」での味覚の講座、徳之島での1200名の長寿の食の調査と町を巡るワーキング、全国の学校給食の現場など、自ら参加したものをメインにまとめました。
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・著 者 金丸弘美
・発売予定 2006年3月10日
・価格予定 1、600円(税別)
・出版版元 NTT出版
・ISBN 4−7571−5056−3
・問合せ先・申し込み NTT出版 遠藤・今井
電話:03−5434−1001
FAX:03−5434−1005
◎毎日新聞ニュースサイト・エッセイ「ゆらちもうれ」で連載中。
http://www.mainichi-msn.co.jp/kurashi/shoku/yurachi/
◎学校給食を月刊誌「ソトコト」で連載中。
http://www.sotokoto.net/top.html
◎金丸弘美正式ホームページ
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