最近の旅日記
過去の旅日記一覧
  旅日記 no.085
「本物の食べ物を作る」
2006年4月2日
こんにちわ、金丸弘美です。
今日は「本物の食べ物を作る」について

鹿児島はもう桜が葉桜になりかけていて、菜の花が満開であった。
今年2度目の鹿児島入りである。鹿児島在住の食のコーディネーターの横山洋介さんから、声をかけていただいて、ある会社がもっている食品工場のさつま揚げの開発のために、試食会に参加してもらいたいということで現地まで行くこととなったのである。

横山さんの考えでは、素材から選んでいいものを作り、それをきちんと売り出したいということであった。僕の役割は、現地を見て、それから僕なりのアドバイスを行い、いずれ製品化すれば、プロモーションをお手伝いするというものだ。

さつま揚げに限らず練り物は、低迷しているとのこと。考えてみれば、僕らも蒲鉾を始め、はんぺんや揚げ物も滅多に食べなくなっている。その理由は、市販の練り物は、化学添加物が多い、砂糖や添加物が多くやけに甘いものが多い、地場産の新鮮なものは少なくほとんどが冷凍の輸入食材が使われている、油っぽい、といった理由からである。第一現在の食卓のアイティムとしてのぼらなくなっている。

とくに我が家は、食で健康被害の経験があるから、できるだけ化学添加物の入ったものを避けたいのである。子どもは敏感だから、へたをすると体に発疹がでてしまうのだ。だから練り物製品は敬遠する方向に自然になっている。

試食会場は、各地のさまざまな練り物と、試作品が並べられていた。
試作品には地元の魚が使われ、素朴だが、味わいはよかった。きちんと手づくりで行えば、いいものができるに違いない。しかし、ほとんどの練り物は、鹿児島に限らず、低価格で味のすぐれたものは少ない。これは多くの流通している食品にいえることだ。

現在、コープも8割は赤字だといわれる。スーパーも低迷し、価格競争になっている。先だって訪ねた大分県臼杵市もスーパー、コープ、Aコープとあって、すごい激戦地区になっている。こうなるとすべてのしわ寄せが、生産や加工の現場にやってくる。

練り物を作る機械のアドバイザーの人に話を訊いてみると、「むこうのスーパーが、この価格で出していますので、その価格以下で」という話がよくあるそうだ。そうなると価格が合わない。となると原料の質を落としたり、するしかなくなるというわけである。その悪循環を繰り返して、結局はにっちもさっちもいかなくなる。これでは生産の現場も消費者も不幸だ。

こういう売り方になったのはダイエーを始めとするスーパーの出店などから拍車がかかったのだろうが、いったんその歯車にのってしまうと抜けられなくなっている。その歯車にほとんどの食品が巻き込まれている。

だけど現場に行くと、どこにどう売って、どんな製品を作ればいいのか戸惑っているケースがとても多い。また現場の人たちも、これまでの流れのなかで製品作りをしてきているから、自分たち自身がなにが本物かさえわからなくなっているのが現実だ。なかなか既成のところから脱却したくともできないでいる。

僕が最近、いちばん印象に残っている言葉が、福岡の「ぶどうの樹」のレストランのオーナー小役丸秀一さんだ。「うちは地域の農家と連携して野菜を入れている。そこで農家の集まりで、安全や農薬の基準を巡ってえんえんと論議になった。そのとき、最後に、ひとりの農家のじいちゃんが、『俺は孫に安心して食べさせるものを出したい。それを作る』という話をされた。そのときに静かになって、基準はそのじいちゃんの野菜作りになった」という話しだ。

そうして価格は農家がつけることができ、その料理のだしかたからメニュー開発、はては種から新たな野菜つくりから、お客にあった商品開発を行い、圧倒的な消費者の支持を得て、連日満員の盛況である。また地元漁師を連携した地魚を使った寿司店は連日満員の活況。これも本物の素材を、きちんと料理して、出しているからだ。

本物の味を知り、それを売るためには、現場の人たちが、これまでのルートに頼らずに、自ら動いて、違うポジショニングを探さなければならない。また他の商品との違いも知る必要がある。物ではなく、歴史や背景や味わいや、ドラマがかたれるようでないといけない。あとはどう消費者に伝えるか、消費者教育も必要。プロモーションの戦略も必要だ。その事例が、あちこち今は生まれはじめている。現在は、激動と移動の時期と言うことができるだろう。

今回の試食会で収穫だったのは、生産をする人たちが前向きであること、プロのブレーンがあつまったことである。なによりよかったのは、新宿の伊勢丹のバイヤーで、最近小倉に出向となった高橋貞男さんとじっくり話せたことだ。伊勢丹の食品売り場は、そうとうにグレードの高いものが揃っていることで知られる。食品を扱うなら伊勢丹をのぞけと、言われているのは、業界では常識である。

高橋さんが売るものが、やはり現場の人たちが、商品作りにすぐれて、食材がきちんとしたものであり、加工に対応できる体制をもっているということがわかった。その人たちはまた営業力もあれば、いいものがなにかを知っている。僕も全国を巡っているので、伊勢丹入るような食品を扱っているところは、まず原材料がしっかりしているし、現場の人が、他の状況もよく知っている。なおかつ自分の商品に自信をもっている人ばかり。それをあらためて高橋さんに気付かされた。

なによりいいものきちんと作り、その作る人たちもまた、他の情報もきちんと受け止め消化し、相手と同等な話のできる営業力があれば、たいていは、売れていくものである。

■絶賛発売中!
『子どもに伝えたい本物の食』(NTT出版)
金丸弘美著  定価:1680円

スローフードのワークショップや、小学校での「おにぎり」を使った
味覚の講座、徳之島での1200名の長寿の食の調査、全国の学校給
食の現場などを紹介。

「読売新聞」、生島ヒロシ『エイジング・ジャパン』、
TBSラジオ「週刊エコラジー」、全国FM局30局などで紹介されました。
注文はAmazon.co.jpからhttp://www.amazon.co.jp/

◎毎週連載中メールマガジン『金丸弘美のスローライフ旅日記』
http://cgi.kapu.biglobe.ne.jp/m/9697.html登録無料
◎全国「食」の活動は毎日新聞デジタル「ゆらちもうれ」で連載中。
http://www.mainichi-msn.co.jp/kurashi/shoku/yurachi/
◎学校給食での「食育」は、月刊誌「ソトコト」で毎月連載中です。
http://www.sotokoto.net/top.htmlこれまで秋田から沖縄まで紹介。
◎月刊「学校給食」で「食彩宝庫 風だより土だより」新連載開始!!
http://www.school-lunch.co.jp/
◎「日本農業新聞」で「こころの一冊」を連載中。
http://www.nougyou-shimbun.ne.jp/
◎月刊「BOB」で「映画評」を連載中。
http://www.kamishobo.co.jp/

◎金丸弘美正式ホームページ
http://210.255.173.147/tml/kanamaru/kanamaru10.html
・ライターズネットワークhttp://www.writers-net.com/
・日本ペンクラブhttp://www.japanpen.or.jp/
・ニッポン東京スローフード協会http://www.nt-slowfood.org/