書評
    大学生が実証 食育の原点    (日本農業新聞 2008年5月5日掲載)

読書 弁当の日 食べ盛りの君たちへ 佐藤剛史 (編) 西日本新聞社

 大学生がお弁当を作る。なんの変哲もないように思えるが、そこに大きなドラマや発見が起こる。学生自らイベントにしたてあげ、テーマを決めて、他の大学とのコラボレーションにまで発展させてしまう。弁当からコミュニケーションが誕生する。
 食育基本法ができて、栄養価や、どう食育をするのかとか、議論ばかりが百出するなかで、目からウロコである。お弁当を作る。こんなわかりやすい食育があったのだ。そこには、手作りも、地産地消も、語らいも、旬も、食への感謝も、すべてを盛り込むことができる。
 日常の身近なお昼を生徒自ら作り、お弁当に仕立てるだけで、新しい学びにつながるという、なんというパラドックス。見事な食のワークショップ(参加型講座)が誕生するのだ。
「お弁当の日」を小学校で子どもたちが自分の手で作ることを始め、家族の絆や、手作りや、旬や、思いやりや、感謝や、創造性を導き出したのは、香川県の校長先生・竹下和彦さん。竹下さんの活動は大きく広がって、いまでは、多くの人の知るところとなった。その竹下さんに触発されて生まれたのが、大学での「お弁当の日」。竹下さんは、この本に寄稿をしているが、そのなかで、親たちが、学業を優先させ、食は外食任せで、作るという場から子供たちを遠ざけたことから、食をとおして学ぶ、作る、嗅(か)ぐ、感じるといった五感や豊かな感受性をうしないつつあるというのだ。それでも子どもたちは、食から学ぶということを、大学生なら、まだ社会人になる前に身に着けることができる。これは見事な実証の記録でもある。