第2回 祭りは食と文化との融合
江上栄子先生(左)と記念撮影。右が筆者の金丸弘美さん
料理を紹介する番組が花盛りだが、僕らの世代以上の年代、テレビの初期時代に料理をにこやかな笑顔とともにに全国の茶の間に届けた人と言えば、なんといっても江上トミさんである。そのお嬢様である江上栄子先生は、市谷の江上料理学院の学院長として知られる。栄子先生は、佐賀県有田の出身。僕は同じ県の出身であることから、2004年に佐賀県栄養会食育研究会の発起人として佐賀県の古川康知事などとご一緒させていただいた。そんなことがあって、江上栄子先生と面識ができた。
江上料理学院では、5年前から日ごろお世話になっている人を、料理でもてなすお花見会と洒落た宴が毎年4月に開催されている。実は、江上先生と直接にお会いする前に、知人の出版社の編集者から連れられてお花見会の最初から参加させていただいている。ここには、さまざな料理の関係者が集まる。たった1日に500人もの人が参加するというのだからすごい。
江上先生に尋ねると「以前は、1年間にお世話になったごく一部の人に、お歳暮やお中元という形でお礼をしていたのですが、それだとほんの少しの方々にしかできない。もっと現場でお世話になった人たちに、日ごろのお礼をしたいということから、今の形にしたのです」とのことだった。
お花見は、桜の咲く時期に料理学校の教室を使って、学校の先生たちが料理作ってもてなすのである。特製チャーシュー、インドチキンカレー、パルマの生ハム、プルーンの赤ワイン煮、韓流セット(ビビムパプとテールスープ)、フレッシュハーブサラダ、シーフードとカラフルビーンズのサラダ、スモークサーモン、新タケノコと中国ゆばのくず煮といったものがずらりと並ぶ。
普通の宴席とは異なるのは、料理ごとのテーブルに、それぞれ作った人たちが付いていて、少しずつ取り分けてくれる。しかも料理が専門の人たちだから、どんな材料でどう作るのか、どこがポイントかということを尋ねると、きちんと答えてもらえるのである。これはうれしい。
また、毎回、いろんな専門家のコーナーがある。前回はワインであったが、今回は日本酒と味醂(みりん)の蔵元の方々のコーナーが設けられ、本当の味醂と日本酒を解説付きで試飲できた。中でもみんなが驚いたのが、10年寝かしたという本醸造の愛知県海部郡の甘強酒造の「拾年熟成貯蔵 黒みりん」である。そのまろやかさ、甘さ、品のよさ、ほどよいアルコール分に、みんなが「えっ!? これ味醂なんですか? 本当ですか?」と、驚嘆の声をあげた。味醂の本当の素晴らしさは、実際に本物を味わい、専門家の人に教えてもらわないと、なかなか分からない。
1年に1度、お世話になった人を料理でもてなす。実は、僕の出身地唐津でも行っていて、これは11月「唐津くんち」というお祭りのときに、どの家も盛大な料理を作ってもてなすのである。そのときは、どんなに胸がはずむことか。また最近でうれしかった新しいお祭りが、千葉県の多古町で行われている。民家を開放し里山の景観を楽しみながら、地元の農家の人たちが、日ごろ野菜やお米を買ってくれる都心の人々約1000人を呼んで、手作りの料理でもてなす秋祭りを開催するのである。実は多古町の祭りは、イタリアのスローフード協会が隔年ごとにおこなっている、町を巡りながらチーズを味わうというブラの「チーズ」のイベントがヒントであったという。
新しい村祭りを僕の家族が住む奄美・徳之島でも行ってみたいと思い、2004年11月に鹿児島県伊仙町で行われた「長寿シンポジュウムIN伊仙」で提案したところ、実現した。徳之島は泉重千代さん、本郷かまとさんが生まれた島だ。それで1200名の長寿の暮らしを調査し、その結果わかった長寿の暮らしを町を巡りなが知り、その家々で郷土料理を味わうというものだった。
ただ歩くだけではなく、伊仙町歴史民俗博物館の義憲和館長に同行してもらい解説を聞きながら、歴史、焼き物、植生、風俗なども知っていくというものなのである。その途中で、島のお菓子サタアンダーギー(黒砂糖を使ったもの)や、島の三味線と太鼓での歌と踊り、さらにヤギ汁にご飯などの手作り昼食をまじえての歩くというもので、島の人たちも初めて体験する人も多く、大好評であった。
江上学院のお花見会も多古町のお祭りも、イタリアスローフード協会のイベントも、僕にとっては、原点が唐津くんちにあって、それがそれぞれの地域で、違うかたちで、現在に蘇っていることに感激したのだ。祭りとは食と文化との融合であり、地域の個性であるという思いがある僕にとって、それをまた現代に再生させた徳之島の人々も素晴らしいと思うのだ。(ライター 金丸弘美)
2005年4月21日
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