第9回 菜の花栽培はゴミのリサイクルから 鹿児島・大崎町
鹿児島県の東南部、大隅半島の東側にある人口約1万6000人の大崎町では、菜の花を植えて、その菜の花の種からナタネ油を搾り、学校給食や、一般家庭で利用を推進している。それだけではなく、ナタネ油の使用後の廃油を家庭から回収し、これをゴミ回収車11台の燃料や、家庭用石鹸にして再利用しているのだ。また町で回収した生ゴミは、リサイクルセンターで完全な有機堆肥にされる。その堆肥は地域の菜の花栽培や一般家庭の園芸用や農家の肥料として、またリサイクルセンターのそばの畑で、無農薬無化学肥料での野菜栽培に使われ、野菜も販売されているのだ。
菜の花による大崎町の景観保護と菜種油の利用のことを知ったのは、隣町の東串良町の村山製油の村山實盛さんからだった。菜種油はほぼ99パーセントが海外からの輸入で、国産はほとんどない。戦後鹿児島には200軒近い製油所があったが、海外からの輸入が始まってから多くが閉鎖に追い込まれた。またそれにともない菜種油の原料である菜の花も栽培されなくなっていったのである。かろうじて県内に残った製油所は5軒ほどで、その一つが村山製油である。製油所の村山さんは、国産にこだわり、青森、鹿児島で、わずかに栽培される菜種の種を使って油を絞っていた。しかし、原料が限られ確保に苦労していたのである。
大崎町の菜種油を引き受けている村山製油一家。搾った後の油粕は最上の肥料として使われる
そんなおり隣町の大崎町で、2001年、菜の花を利用しての地域循環をする取り組みが始まったのだ。町では菜の花による循環システム先進地滋賀県の愛東町の視察を行い、取り組みを始めることとなったが、菜の花栽培はともかく困ったのが油を絞るということである。そんなとき隣町に村山製油があることを知って、菜種油の絞りを依頼したのが連携の始まりである。現在、大崎町の菜の花は、実行委員会に町が無償提供した畑14ヘクタールで栽培されている。油にして900ミリリットル3000本にもなる。これらは地元で販売もされているのである。
大崎町を訪ねたら菜種の循環システムは、じつはごく一部の取り組みであった。あらゆるゴミの回収システムが、地元住民の協力で行われており、分別ゴミは27にも分類されてリサイクルに回され、原料リサイクル率は99・8%にもなる。つまりほとんど無駄なく回収され、それが業者に買い取られて、再び利用されているというのだ。廃棄したり埋め立てたり、燃したりというものがない。これは、おそらく日本でもトップクラスではないだろうか。
村山さんの案内でお会いしたのは「大崎町菜の花エコプロジェクト事業」を担当する大崎町役場の環境係長・徳禮勝矢さん。役場の入り口には、ゴミの分別のポスターの下に、回収分別の仕方、その現品、また菜種油や石鹸などのサンプルも展示してあり、ひと目でリサイクルがわかるようにしてあった。
「そもそもはゴミ問題から始まりました。1997年にこのままゴミを埋め立てに回すとなると、あと10年もすると処分ができなくなる。処理場を作るとなると維持管理も大変になる。そこで、リサイクルの仕組みを作ろうと始まったのです。生ゴミを回収して、これを堆肥にしても、すぐには畑では使えないでしょうから、まず試験的に菜の花畑を作ることから始めようとなった。リサイクルの先進地には、みんなが手分けして行きました」と徳禮さん。
菜の花栽培の実行委員会を募り、まず7人から始まった。同時に導入にあたり、一年をかけて大崎町内の各地区を回り、ゴミが増えると10年後には処理できないばかりか、住民負担になること、分別ゴミを徹底することで、それが財源となること、菜の花の種は油になり、地域資源を生かすばかりか、安心安全な食材が手に入ることなどを説得してまわったのだという。
「村山さんにも来ていただき、菜種油が海外のものは漂白されていることや、国産が少ないことなども話してもらいました。もちろんゴミの回収にあたっては、なぜそんなめんどうなことをすると言う人もありました。しかし、ゴミが回収できないとなると、町内に処分場の施設を作ることになるとという話になると、みなさん反対でした。こうして住民自治でゴミ回収を行うことになったのです」
そおリサイクル有機工場の堆肥になった生ゴミ。臭いはない。左側は、役場の徳禮勝矢さん
現在大崎町にはゴミ収集場単位に152の「環境衛生自治会」という住民組織が作られ、住民が500円の会費を出して運営してるのだという。その地区で27にゴミは分類され、生ゴミは蓋にパッキンがつき、さらに臭いを消すのにオガクズ入りポリバケツが置かれている。こまかく収集ができる仕組みになっている。生ゴミの行き先を見せてもらったら郊外の緑豊かな場所にあり、「そおリサイクルセンター有機工場」というところに委託されて処理が行われていた。その処理場は、有機農業の堆肥作りがそのまま応用されていた。そのために有機農業で有名な埼玉県の金子美登さんや、大分の赤峰勝人さんの農場視察も行ったという。
そおリサイクル有機工場横の農場。露地栽培でのきゅうり。生ごみ堆肥が使われている
生ゴミには、道路や学校、公共施設などの植木選定や伐採ででてきた木や葉などを粉砕し、生ゴミ1に対して木葉などを4の比率で入れると最適な肥料ができるという。これらは堆肥工場で発酵しやすいように粉砕し何度か切り替えして、自然の発酵の力で堆肥還元するのである。そうして、工場周辺では堆肥による野菜作りや、販売用の袋詰めが行われていた。それにしてもここまで徹底しているのには、正直驚かされた。この工場見学をして、ホテルに戻り、改めて徳禮さんにいただいた名刺をみたら、なんと名刺自体がいらなくなったポスターをそのまま利用して、裏紙に印刷したものだった。(ライター、金丸弘美)
鹿児島県大崎町 http://www.town.osaki.kagoshima.jp/
2005年6月10日
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