第10回 町ぐるみで町づくり 大分・竹田市
滝廉太郎が幼少期を過ごした家の周辺。景観を配慮した商店として人気のところだ
全国を巡ってきた中で、ぜひもう一度行ってみたかったのが大分県の竹田市だ。竹田市は九州のほぼ中央にある。阿蘇に近く自然景観が素晴らしい。城下町で岡城を歌った「荒城の月」で知られる瀧廉太郎が少年時代を過ごした町でもある。人口2万8000名。小さなところだが、自然豊かで、景観も美しく、文化度も高く、水も綺麗で、温泉もあるという、こじんまりしているが、さまざまな情景をもった情緒あるところである。
もっとも興味をもったのは、城下町の保全がされていて、その建築物を生かす一方で、農村部の農産物や加工品なども連携させ、環境と食と農業と地域全体をすべて資源とした外部との観光交流が、町ぐるみで行われているということである。トータルな視点での町づくりがしっかりされているのである。だから昔ながらの地域の文化が残っているが、それが決してノスタルジックにはなっていない。あるものを存分に現在に活かしながら、どう生活に取り組んで活性化させるかという意気込みが、町のいたるところからあふれている。
「荒城の月」の舞台となった岡城跡。ここを中心に「竹楽」のイベントが展開される
竹田市の城下町は、古くからの建築物が残っているが、これらの町並み保存が積極的に行われている。1978年、国土省から「伝統的文化都市」として指定されたのだそうだが、だからといって町並みが保全されるわけではない。そこで1980年に市の「歴史的環境保存条例」が策定され、1997年から「町並み景観整備事業」を始めた。改修にあたっては700万円を限度とし、市と国とで6分の5の補助をしているという。その基準は建築の専門家と一般市民で構成される審議員の審査を受けるのだそうだが、年間10件を超えるという。
これによって昔の町並みが生かされているのだが、その修復された民家の多くは現役の商店街として活用されている。また素晴らしいのは市の管理下にある、文化財的な、例えば滝廉太郎の家なども、決して入場料を取るだけのお飾りにはなっておらず、その建物を使っての展示会や個展、料理の夕べなど、既存のものをうまく使ってイベントが組み込まれているということだ。ちなみに滝廉太郎の家屋だけでも一日平均70名、年間2万5000名が訪れるという。古い町並みと現在の活動をコラボレーションすることで、町全体が観光事業として動き出している。
なかでも農村と連携したものに、「竹楽(ちくらく)」という里山の竹を切り出して灯篭とし、城下町をライトアップするイベントがある。11月18、19、20日の3日間で、動員は10万人を超える。5年前から始まった竹を使ったインスタレーション、まるで町と灯篭をマッチングさせたアートとも呼べそうなものである。実はこれは竹田市周辺の里山の竹が増殖することで、山林が荒れている現状から、竹をなんとか切り出し有効に使えないかということから始まった。竹を灯篭にして、町にもってくることで、イベントにつなげるという発想から生まれたものだ。そうして竹の灯篭は、今度は炭として、川の浄化に使われたり、ペンダントの加工品として販売されていたりもするのだ。
竹楽は竹田市内の100あまりの市民団体のボランティア1800名が協力し、山林のある周辺の久住、荻などの地域の人たちと連携して切り出す。それらは蝋燭が入れられるように斜めに適当な大きさに切り、地域にある炭小屋で蒸す。青竹だと日持ちがしないそうで、蒸すことで3年ほど使えるという。使い終わったものは、順次炭にして、これを里山周辺の川に流れこむ排水の浄化に使われている。竹田市周辺の里山は、昔の景観をもった美しいところだが、竹を切り出すことで、里山に手入れが行き届き、荒れなくて済むというわけだ。
さらに竹楽のイベント当日は、竹を切り出した周辺の里山の農家の人たちが町に農産物や加工品を持ってきて、それを観光客にも販売するということになっているのである。地元で採れた野菜や果実は、新鮮でおいしい。加工品も饅頭や豆腐など、味わい豊かなものがたくさんある。おまけに農家のある地域と商店のある地域は、車で30分もあれば行けるから、鮮度も落ちない。商店で農家が販売することで、生産者と消費者が出会うというわけで、新しいコミュニケーションが生まれるというわけだ。
竹田市内の商店街。古い町並みが修復され、現代にも引き継がれている
こういった取り組みの背景には、かつて人口が1万7000名にも激減し、過疎化になったということがあるのだが、そこで、町の良さを再発見し、町の特性を活かしていこうという政策がとられたことによる。その大きなきっかけは、1997年に農村部を含めた地域の特性を活かした「竹田市観光振興計画」が作られ、1998年には実践するための官民一体の「竹田研究所」が発足したことだ。竹田研究所は、市役所内に事務局がある。これまでの役場の縦割りから変えて、農業、商業、観光などの各部署を縦断する組織。役所から6名、市民から9名が参加して、毎月会議を行い、そのメンバーを中心に地域の人たちと連携した取り組みが行われている。任期は2年である。所長は助役。事務局長は、農林振興課と商工観光課で活動してきた河野通友さん。座長は、民間からの広瀬正照さんである。
実は、市内を案内していただくのに河野さん、広瀬さんを中心にお世話になったのだが、お二方が、実に市内の現場をよくご存知。歴史的背景から、特色まで、すべて頭に入っている。なにより地域を愛している様子が、人柄からあふれている。竹田研究所を立ち上げた当初は、まったく外部からの事務局長を頼んだのそうだが、あまりうまくいかず、地元は地元からと、河野さんが事務局となり、地域の人が中心になった活動に切り替えて、大きく動き出したという。現在、竹田市の観光客は400万人を超えている。(ライター、金丸弘美)
竹田市 http://www.city.taketa.oita.jp/
2005年6月15日
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