第22回 年間19回の体験教室 岩手・ポラン農業小学校
岩手県の小学生を対象とした農業体験教室「ポラン農業小学校」に参加した。最近は、各地で食と農の体験が盛んに行われるようになった。ポランの教室は、いわて生協と西和賀農業協同組合が連携し、退職した教員の人たちを中心に1993年から実施されているのだという。
生協と西和賀農業協同組合のつきあいは、牛乳を通して30年にもなるという。ところが、最近は子どもたちが農業の現場に触れる機会が少なくなっており、このままでは、農業が途絶えてしまうという話が出たことから、子どもたちの体験交流という企画が生まれたという。ポランは宮沢賢治の戯曲から取られた名前だ。
盛岡からいくつかの場所で子どもたちをバスで拾い、夏場の畑のある沢内村貝沢に向かう。バスはチャーターされたもので、参加は1年間で毎月2回。年間で19回もある。参加費用は3500円。もっとも参加費のほとんどはバス代で、運営費は生協の社会還元という形で、出されているという。
バスに乗った子どもたちは小学1年生から6年生までいる。初めての子もいれば、もう3年間通っている子もいる。今年初めてというのは、仙北小の沢田智子さん。「前に行ったときに山登りがあって、自然体験がすごく面白かった。それにドッチボール、ビンゴなどのゲームも楽しかったなあ」。車内には、生協から女性の瀬川さんが1人。「付き添い、母親、お手伝いと、なんでもです」と、笑った。
バスが10分も走ると、緑の豊かな風景が広がり、それからさらに50分走って、山に囲まれた目的地に着いた。畑には、もう先生たちが待ち受けていた。元ポランの校長で、元教員の谷内博司さん、現ポラン校長で、元教員の高橋清さん、教員の鈴木昭一さん、農協職員の高橋弘さんなど、数名の人たちだ。
ジャガイモ堀りをして喜ぶ子どもたち。前に植えた男爵とメイクイーンが大きくなった
子どもたちが集まると、作業の手順を話して、まず雑草取りから始まり、ジャガイモ、枝豆、トウモロコシ収穫と進み、お昼を食べて、それから大根の種まきと、作業は結構たくさんある。だけれども、みんな黙々と真剣に取り組んでいる。作業の様子を見ていると、子どもたちまかせ。大人たちは、作業の手順を伝えたり、ときどき野菜の種類や、雑草のことなどを教える、土地をならすという程度で、基本は子どもたちの自主性に任せてある。
みんなに指示を出している元気な子がいる。バスでは、騒ぐ男の子たちに注意をしていた佐藤香奈さんだ。彼女は村長さんで、まとめ役だということが分かった。村長さんは10人に1人いて、チームリーダーなのだ。「村長はね、農作物の収穫物の分配や分別、バスの中のゲームを決めたりするの。ここにくると、毎年作る作物が違ったり、豊作があったり不作があったり、なぜそうなるのか体験をする。自然のなかで遊ぶのが楽しいね。大人になったら、自然のなかに囲まれて、自分の畑を作って、自分で栽培したいんです」という。
びっくりしたのは、小学校1年生から毎年参加して、もう6年目という高橋瑠璃さん。高橋さんは、この畑の隣の湯田小学校に通っている。「うちの学校は全校で54名しかいない。盛岡からみんなが来てくれて、友達ができたのがうれしい。雑草を取って、収穫して食べるのが楽しいな。サトウキビとか、ジャガイモとかおいしいよ。山菜取り、虫取りも面白い。でも考えたら、毎週のように、みんなと会っていて、中学になると会えないと思うと寂しいなあ。中学にもあるといいのに」
佐藤さんや、高橋さんに話を聞いていると、みんなが集まってきて「キャンプは楽しかったじゃん」「肝試しもやったよね」「ほら大根を抜くときの感じが、すごく気持ちいいよね」「水遊びがいいよ」とか、1人の話から、みんなの共通した体験が、まるで水の波紋のようにどんどん広がっていく。それだけで、子どもたちが、体を通して楽しんでいる様子がよくわかる。
体験が終わるとみんな作文を書き毎回文集として配布される
でも、指導する側の大人たちも毎月2回ともなると大変そうだが、皆さんおだやか。現校長の高橋清さんは「最初は大変でした。手順を決めても、水たまりで遊び始めたり、おたまじゃくしに夢中になったりしてた。ところが、収穫から変わりましたね。スイカを収穫してお土産にもって還って、家族に喜ばれたんだね。それから、草取りもしなければいけないんだって自然に学んだみたいなんですね。そんなことが作文からわかるし伝わってくる。だから、毎回、作文だけは、書いてもらっているんです」という。
体験の楽しさは、高橋さんでなくとも、子どもたちのそばにいるだけで、伝わってくる。そうすると、いつの間にか、自分の幼少の頃の、いろんな自然体験が思い出されて、なぜか、懐かしい、気持ちにさせられたのだった。
ポラン農業小学校(いわて生協のサイト内) http://www.iwate.coop/kumiaiin/poran/
2005年9月9日
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