第25回 楽しみなくじら食文化を守る会の集い
毎年、楽しみにしているのが、新宿の居酒屋「樽一」で行われる「くじら食文化を守る会」の集いである。なにせ、あらゆる鯨料理が登場するのである。そして新たな創作の料理も登場する。この日もさまざまな鯨がでてきた。
お刺身:赤肉本皮・ベーコン盛り合わせ生姜辛子添え。心臓刺オリーブオイルおろし玉葱。赤肉ゆっけ千切りリンゴ添え。本皮湯引き辛子味噌和え。
珍味盛り合わせ:舌・百ひろ・胃袋・食道ほか。
流し物:潮吹き煮こごり。
焼き物:赤肉ステーキ自家製ソースにんにくチップ添え。心臓にんにくバター炒め。かきと本皮炒め。鯨朴葉焼き赤肉、赤肉、胃袋、食道、えのき。
揚げ物:赤肉竜田揚げミディアムレア。舌のフライ。鯨ミンチボール一口揚げ。脳みそ揚げだし。
煮物:本皮冬瓜煮。鯨カレーシチュー。
酢の物:すだれ鯨。百ひろ辛子酢みそ和え。胃袋南蛮みそ和え。
口替わり:水菜サラダ。谷中生姜。
汁物:鯨けんちん汁。
飯物:鯨めし・本皮・ごぼう・人参。
デザート:梨。
お酒:浦霞樽一特選酒・ビール。
鯨は、江戸の文献でも多くの部位と料理があって、まったく捨てるところがないことが、絵巻にも描かれているが、実際、現物を目の辺りにしてみると、こんなにも食べたことがないものがあったかと、驚くばかりである。
定番では、僕たちが幼少の頃から食べ慣れていた(当時は庶民の家庭の味であった)鯨の皮の酢味噌和え。それに腸のボイルがもっともお気に入りだが、今回の料理の中で美味しかったのは、本皮冬瓜煮(ほんがわとうがんに)であった。
冬瓜のさっぱりさと、本皮の脂が相殺して、ほどよい味加減で、本皮のふわふわした感じが、いいのである。かつ見た目が爽やかだった。この料理は、周りからも絶賛であった。
今回の料理の鯨は、鯨類研究所というところからの提供だそうで、調査捕鯨での鯨が使われたという。
そもそも「くじら食文化の会」を知ったのは、もう10年以上も前のことで、知り合いから鯨料理を出す「樽一」を紹介されてからだった。当時、ミンク鯨の日本近海、北太平洋の捕鯨が禁止されてしまい、鯨が食べらなくなると大騒ぎになった頃だ。もう亡くなってしまったが、「樽一」の経営者・佐藤孝さんは、もとは調査捕鯨に関わっていたのだそうで、魚をこよなく愛している人だった。大きな体で、包容力のある方で、僕の本の活動を、いつも褒めて励ましてくださった。
僕は佐賀県唐津市の、漁港のあったところで育ったから、鯨は日常の食べ物だった。それに、400年続く伝統の祭り「唐津くんち」での料理でも鯨はかかせないものだった。それだけに、佐藤さんの「くじら食文化の会」を知ったときには、もう喜んで参加した。その頃の会長は、写真家の故・秋山庄太郎さんだった。
現在は、亡くなった佐藤孝さんに代わって息子で二代目が頑張っている。会の会長は、故・秋山庄太郎さんに代わって東京農業大学教授の小泉武夫さんが引き継いだ。
くじら食文化を守る会の二代目会長、小泉武夫・東京農業大学教授
副会長の水産ジャーナリスト梅崎義人さんによると、「昭和62年に、秋山庄太郎さん、小泉武夫さん、佐藤孝さんたちと、もっと捕鯨について、一般の人たちにアピールしなければならないのでは、ということになった。秋山さんが、アメリカなんかに負けるなと、いうことで始まったんです」という。
小泉さんは「現在、商業捕鯨を強行に反対しているのは、アメリカ、カナダ、オーストラリアなどだが、すべて、日本にもっとも牛肉を輸出している国。こちらの食文化に介入して、こんどはマグロがだめだといいだし始めている。とんでもないことです」と言う。僕もそのとおりだと思う。
調査捕鯨は、小泉さんによると「国は調査捕鯨に対して現在8億円を出している。しかし実際は、40億円がかかっている。その残りの費用は、調査捕鯨での鯨の販売費用で賄われているんです」と言う。調査捕鯨は、科学的な視点から、鯨の生態や数、適正な捕鯨の量を調べるもの。しかし、実際は、もうすでに商業捕鯨は行われてはいないし、早くから適正な捕鯨の取り決めは行われていた。ところが、現在、調査捕鯨そのものにも圧力がかかっている。
かつて鯨捕獲の中心だったのはアメリカ、カナダなど、現在反捕鯨をとなえている国で、彼らの捕鯨がかつて全体の85パーセントを占めていたという。その彼らが、鯨を一つの環境の象徴に祭りあげて、そこから環境団体と連携した世論を作り上げ、世界の方向をまとめあげていく、プロパガンダに利用されている。これはイラクへの侵攻と変わりがない論理だと感じるのは、ぼくだけではないだろう。
アメリカを中心とする捕鯨の強硬な阻止には、反感を覚えているほうなのだが、だから鯨を食べるのではない。僕の成長と、僕らの育った唐津の町には、ずっと鯨食文化があったのだ。そうして、それは実に無駄なく、食べられていたのである。僕は、身近な食の文化の象徴としての鯨を愛してるのだ。それは、米、魚、野菜と同格なのである。「くじら食文化を守る会」のいいのは、おいしいものを食べる集いであるということだ。そこから、僕たちの身近な食をも一度再発見させてくれる刺激的な場でもあるのであるライター、金丸弘美)
くじら料理「樽一」 http://www.taruichi.co.jp/
2005年9月30日
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